2024年5月9日木曜日

Apple M4チップの歩留まり戦略

 これはM3のときに書こうと思って、時期を逸してしまった話。
AppleのiPad Proと内蔵のM4チップが発表されました。


M4はトランジスタ数で28billion(280億)個ということで、相当大きそうなチップです。intelのi9のトランジスタ数に比べても3~5倍多いらしいです。それだけ大きいと歩留まりが問題になってきます。ウエハにはある程度の密度の欠陥が避けられず、チップが大きくなればなるほど1つのチップに欠陥が当たる率が増え、結果的に捨てるチップの割合が高くなるからです。

性能上の限界も製造ロットごとにばらつきます。インテルのCPUなどは、クロックスピードにいくつかバリエーションを設けて、速いチップはより高く売るというようなことをしています。あれはプロセスを変えているという部分もあるかもしれませんが、基本的には同じ設計で作ってから選別しているはずです。

Appleの場合はスピードのバリエーションは作っていませんが、CPU数にバリエーションがあります。

これはiPad Proのページから抜き出したものですが、ストレージが256GB/512GBのモデルは「3つの高性能コアと6つの高効率コア」、1TB/2TBモデルは「4つの高性能コアと6つの高効率コア」となっています。高性能コアの数が1つ違って、外は同じです。これはどういうことか。

設計上は別々に作るのではなく、同じ設計であるはずです。別々に設計するのであれば、コアの数が1つ違うだけというようなことはせず、もっと仕様のバリエーションがあちこちにつくはずです。ということは、ここで選別が行われているということです。チップの欠陥が高性能コアのうちのどれかに当たれば、そのコアの動作を止めて残りの3つを動作させれば、「3つの高性能コア」のバージョンができるということです。

これはAppleが発表しているチップ(ダイ)の絵で、白い表示のエリアの大部分が高性能コアの領域です。仮にこれが占める面積がチップの20%であったとすると、おおざっぱな計算でいうとウエハの欠陥によるチップの不良品のうち、約20%が「3つの高性能コア」バージョンとして救えるということになります。仮に全部を「4つの高性能コア」にする場合の歩留まりが80%であったとすると(チップが大きいのでそれなりに歩留まりは低いはず)、84%ぐらいまで歩留まりが上げられることになります。結果的に原価も抑えることができます。

intelはこれをやっていないのかと思っていたのですが、intelのMPUも最近のi9などを見るとコア/スレッド数にバリエーションが付いてました。

さらに考えると、製品の上位バージョンと下位バージョンの割合は価格でコントロールするだけなので、思うようにはなりません。下位バージョン(3コア品)の販売が半分だったとすると、4コア動作するチップのうち1つの機能を殺して製品に使うことになるわけです。もったいない気もしますが、別々に設計製造するコストにくらべれば、その方が効率が良いのでしょう。

なんとも残念な気がしますし、もったいないからそれ生かしといてよと言いたくなりますが、多分そういうことです。せっかく性能が出ているのにそれを殺して出荷するという例は外にもあるでしょうか。


2024年4月15日月曜日

SwitchBot ハブミニ 故障→分解

 「SwitchBot ハブミニ」をAlexaとのセットでプレゼントで貰いました。照明のリモコンをAlexaから操作するというような仕掛けを設定して遊んでいたところ、SwitchBotの電源が入らなくなってしまいました。リモコンの学習をしていたときのことですが、ネットで見てみると似たような事例が複数起こっているらしく、製品の問題として保証対応してもらえそうです。

SwitchBotアプリのサポートページからサポートを申し込むと、電源を入れても電源が入らない状況をビデオに撮って送れとのこと。その通りにすると、少し日数はかかりましたが、新品が送られてきました。もとの製品は返送しなくてもいいということです。

しばらく放置するとまた復活したりしないかと少し期待しましたが、まったく動く様子がないので、開けてみることにしました。ケースにビスはなく、ツメで止まってます。4方向に8本のツメがあるので、傷をつけずに開けるのは難しい。

開けると、PCBが見えます。下の方に赤外リモコンの受光部(左下黒)、赤外リモコン信号の発光部(右下子基板)があり、チップが2つ見えます。
左の大きめのチップが、Nordic SemiconductorのnRF52832で、これはBlootoothのチップです。SwitchBotシリーズの人感センサ―や温度計、カーテン開閉のデバイスなどと接続するのにつかうもの。
右肩のチップはEspressif SystemsのESP8266EXで、Wi-Fiのチップです。
その他は受動部品とWi-Fiのアンテナらしきもの。右端にあるランドは何のためかわかりませんが、引き出しランドにはRX、TX、SCL、SDAなどが読めるので、なにか通信用のチップ用?それにしてはピン数が多い。

裏側もあまり部品はありません。8ピンのT25S32はSPIフラッシュで、これがESP8266EXの近くにあるということは、メインのコントローラはESP8266EXなのでしょうか。32bit RISCプロセッサを積んでいるようです。
いずれにしても、パーツはどれも汎用品で、部品点数も多くないので、それほどコストは高くなさそうです。5,000円以上の価格で売っているのはなかなか強気にも思えますが、ビジネス的には各社のリモコン信号の対応が鍵になるのでしょう。リモコン信号のフォーマットなどは公開されていないのがほとんどなので、なかなか大変な作業だと思われます。
製品としては、リモコン信号の発光部にレンズを付けるでもなく、乳白色のケースを通して光らせるだけ、という思い切りがすごいと思いました。あと、電源のコネクターがUSB-miniBなのはイマイチですね。

2024年3月31日日曜日

翻訳者トライアル覚え書き

 翻訳業界はなぜかネットに出ている情報が極めて少ないので、備忘録的に。

これまでに受けた英日翻訳者のトライアルの内容について、差し障りがないと思われる範囲でメモしておきます。


T社(2022年1月):

経験のないところからどうやって翻訳者としての仕事を始められるかと考え、当初はAmeliaの定例トライアルのIT・テクニカルでクラウン資格を取ろうとしたところ、これがなかなかハードルが高いものであることが判明(今に至るまで、Aを取れたこともない)。Ameliaのカウンセリングを受けてみたところ、Bぐらいが取れているのならトライアルを受けてみれば良いとアドバイスを受け、Ameliaサイトから応募。

結果、この1社目はトライアルも受けさせてもらえず、不採用の連絡のみ。


R社(2022年3月):

JTFサイトの求人から応募。この会社はほぼ常時求人を出している模様。

ITマーケティング、CAD/CAM、計算機関連、大手ITベンダ対応の4分野でトライアルを実施。2週間ほどの時間を与えられて、各分野の課題の英文を和訳するという課題で、特にしかけがある様子でもなかった。

1か月たっても連絡がないので問い合わせたところ、4分野中の2分野で合格になっていますが、システムの関係で処理が止まっているとの返信。しかし翌日には手続きが進み、登録となった。このやり取りを含めて何か試されているのではないかと思ってしまいます。

この社からは、翌月から始まって継続的に受注あり、副業で翻訳を始める契機となりました。ありがたい会社。


H社(2022年4月):

JTFサイトから応募。ここも常時求人を出している印象。

本トライアル前にWebでの事前テストがあり、英文が提示されてそれの誤っている箇所を指摘するという問題で、時間制限付き。これはなんとかパスし、トライアルは合計350ワードほどの英文和訳で主にITマーケティング系。

結果、「大変残念ですが、今回はお見送りさせていただくという結論に至りました」ということで、不採用。


S社(2022年7月):

B社から継続的に発注はあるものの、専業で翻訳を生業とするには仕事量が足りないということで、Ameliaから応募。

合計500ワードほどで、期限は3日ほど。内容は半導体のデータシートの一部だと思われ、後に受注する案件とも共通する。

2週間を待たずに合格の案内あり、登録。

ここも継続的に受注あり。TMがしっかりしていてレートが高めなのでありがたい。


M社(2022年9月):

2社から仕事を受けるようになって、会社も辞めて専業化するぞと意気込んだ時期。Ameliaの求人から申し込む。課題は2段階に分かれていて、第1段階は文章のエラーの検出や文章の穴埋めなど、共通テスト的な内容。第2段階はIT系、メディカル、ビジネスブログの翻訳3題。応募者が多い場合には第1段階で足切りをするのかもしれないが、第2段階もまとめて提出する形だった。

ここの課題は形式がしっかりしていて、スタイルガイドやインストラクション、クエリのフォーマットまでがついている上、回答の提出の仕方もZipパスワードの送信法まで含めて細かく指示が入っている。

結果、20日待ったあとに「慎重に選考を重ねました結果、誠に残念ながら今回についてはご期待に添えない結果となりました」。回答の提出時に、Zipファイルの添付を忘れて再送信するという痛恨のミスをやりました。それが原因で落ちたと信じたくはないですが、応募者に事欠かない状態であれば、少しでも瑕疵があれば落とすのかもしれない。


C社(2022年9月):

ここも上のM社と同時に申し込んだはず。課題は回答必須のものと選択可能なものが数題。訳文にコメントを付ける欄が設けられており、原文の英文に少なからず間違いがあるというトリッキーな設定。スペル間違い、文法上の不整合、日付と曜日の不一致など、だいぶ気づいてコメントしたつもりですが、対応に迷うものもあり、モヤモヤする課題でした。

1か月ぐらい返信がなかったので期待が膨らんだものの、返信は、「トライアルの内容およびその他総合的に判断させていただきましたが、今回の翻訳者登録は見送らせていただきたく存じます」

このときも、回答返信先のアドレスが指定されていたのに、Reply-Allで担当者宛に返信してしまうというミスがありました。指定アドレスがCCには入っていたものの、不安になってToにして出したのですが、こういうミスはやはり良くないはず。


H2社(2022年11月):

9月に2つ落ちて意気消沈したものの、なんとかしないといけないのでもう1社申し込み。ここの課題は面白くて、原文を検索すると訳文が出てくるのですが、それに間違っている部分がある。また、機械翻訳の訳文のポストエディットをする形の課題もあって、これはさじ加減が難しい。

課題提出後20日ぐらいで、めずらしく面接選考に進むという連絡がありました。Zoomで社長含め4人ほどが参加される面接があって、比較的早く登録の案内。職歴等から「ややこしい人」かもしれないと思われていたのを払拭できたのが良かったのかもしれない。

ここは某IT大手の仕事をしていて、ツールやシステムが整備されています。勉強になりますが、単価は高くないというところで、バランスが取れています。


2024年2月25日日曜日

語順の違いによる翻訳の問題

新聞記事で、なかなか複雑な構文を見つけました。
こうした研究結果は、極右の政治指導者が先を争うように気候変動は特権階級の都市部エリートの行き過ぎた懸念だと訴えている時に、公のメッセージを世に伝える賢明な方法の好例だ。

明らかに翻訳の文章なので、原文を探してみると、こうなっています。

Both the paper and the website are examples of smart ways to get a public message across at a time when far-right leaders are racing to argue climate change is an overblown concern of privileged urban elites.

日本語の方は、最初の主語を受ける述部が文章の最後にあって、その間に文章が入れ子になった節が入っている構造になっています。単語の内容から、読み間違える心配はないものの、一読して構造を読み取るのは難しそうです。

一方、原文の英語は、その骨格が文章の最初にあって、後で修飾を加えていく形になっているので、前から順に読めるようになっています。


これは、どうすれば日本語で読みやすくなるでしょうか。
とにかく、主部と述部を近づけていくしかなさそうです。「at a time」以下の部分を前に持ってきて、もとの訳文で離れている部分を近くに置くと、だいぶ見通しがよくなります。

気候変動は特権階級の都市部エリートの行き過ぎた懸念だと、極右の政治指導者が先を争うように訴えている時に、こうした研究結果は、公のメッセージを世に伝える賢明な方法の好例だ。

 ただし、「こうした研究結果」は前の文を受けているので、それと離れてしまうという問題は残ります。


[FT]脱炭素を阻む思い込み 「対策に寄付」実は多数派

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB195Y70Z10C24A2000000/


How to do climate policy in the age of the green backlash

https://www.ft.com/content/2819b9f3-bec0-4537-b3e5-d28fcfb080f5